以前に、ペトロ・ネメシェギ著『キリスト教とは何か』を本欄で紹介し、大変評判がよかった(と勝手に推察します。<笑>)ので、同じ著者の別の本をとりあげます。『神より神へ』(1968年、聖パウロ女子修道会、ユニヴァーサル文庫71)です。
書名についてこんなエピソードが記されています。著者は幼少の頃、夏休みに叔父の家によく行き、家の正門の前にそびえたつ巨大な菩提樹に心を魅かれました。そして、枝が天に向かって幾重にも伸びている一方で、太い根が何本も地に張っていることに気づきます。その大切な記憶とともに成人した後、オリゲネスの書物に「父なる神は根である」という言葉を発見します。「天にまします我らの父よ」として、以前は神というと上に向かうことばかり考えていたのに、神が万物の根でもあり、すべての出発点でもあると知らされるのです。そこで、根より大空へ、つまり「神より神へ」という表現で我々の存在を表わすことがふさわしいと書名に採用したようです。(本書1~3頁を森川が自由に要約)
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究極的な源泉
- 神の言葉と秘跡の二つは、私たちがキリスト者として生活する上の根本的源泉であります。しかし、こう言っただけでは、私たちはまだ究極的源泉にまで遡ってはいません。神の言葉や秘跡が、私たちの生命の源泉となるのは、それらを通してキリスト自身が私たちに出会うからです。……私たちはみな、「キリストから出発し、キリストへ向かっています」。キリスト者は自分の生活のすべてがキリストから出ることを深く理解していなければなりません。しかし、……最も究極的な源泉は、父なる神であります。……父なる神は慈しみ深い愛の永遠の決定により、この世を作り、その中心にキリストを置き、私たちをキリストの兄弟とし、この世のいっさいのものを唯一のかしらであるキリストのもとにまとめられるのです。(3~4頁)
キリストが与える最大の賜物
- キリストが私たちに与えられている最大の賜物は、聖霊ご自身であります。「聖霊の賜物を受ける」という表現が聖書の翻訳によく見られますが、それは原文を正しく訳したものではありません。「聖霊という賜物」と訳すべきです。聖霊こそ賜物なのです。恵みには神と区別された賜物ももちろんありますが、主要な賜物は聖霊ご自身です。聖霊は心の中に太陽のように現存し、聖霊を受けた人の心は徐々に照らされます。蝋に印が刻まれるのと同じように、聖霊は人間の心の奥底にご自身の本性を刻み込まれるのです。私たちの心を徐々にキリスト化していくこと、これこそ復活したキリストの最大の賜物である聖霊の働きです。聖霊の勧めに従って考え、感じ、行動し、それに反するすべての思いを遠ざけることは、私たちキリスト者に課せられた使命であります。(17頁)
本来的な信仰
- 信仰は、人間が自分のすべてを、啓示する神にゆだねる、全面的な自己奉献であるときにのみ、信仰のあるべき姿をとります。……全面的な自己奉献を伴わない信仰は、長続きしません。そして少なくとも何らかの形で神との出会いを望まないならば、信仰は全然成り立ちません。そこから、一口に信仰と言ってもどれほどの段階があるかということが分かります。信仰は一定の教義を受け入れるか受け入れないかという頭の問題だけではありません。人は頭だけではなく心で信じます。信仰は人の心の中でますます深められていくべきものです。(28~29頁)
聖霊の光による信仰
- 人間理性だけを働かせて信仰に至ることはできません。このことを聞いて驚く人がいるかもしれませんが、キリスト教の教えによりますと、神の啓示を信ずるためには、キリストを通して与えられる恵み、信仰の光と言われている聖霊の恵みがどうあっても必要です。……福音書の中でいろいろな表現をもってはっきり教えられています。ヨハネ福音書の六章に、「父によって引き寄せられる人でなければ、誰ひとり私のところに来ることはできない」(6・44)というキリストの言葉が書かれています。また、パウロはコリント前書で、「聖霊によらなければ、誰もキリストは主であると言うことができない」(12・3)と言っています。……信ずることが正しいことであり、神が私たちに期待しておられることだと、私たちは聖霊の光を受けて理解するのです。(35~36頁)
信仰は毎日のこと
- キリストはご自分が信仰(される)に値することを、十字架上でご自分の命を犠牲にし、私たちに近づくために復活することによってお示しになられました。私たちはキリストにおいて示された神の誠実さに全き信頼を置いて、信仰の暗闇の中に飛び込んでいきます。それは一生に一度限りのことではなく毎日のことです。私たちは朝ごとに、「主よ、私は今日も信じます」と言わなければなりません。(39頁)
全10章の中の「源泉」と「信仰」の章から一部を引用しました。他は「真心からキリストに従って」「聖体」「キリストの十字架」「復活」「喜び」「聖霊」「愛」「永遠の生命」という章立てです。いずれも大変に読みごたえがあります。
JELA理事
森川 博己
森川 博己
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