『友情ある説得』(ウィリアム・ワイラー監督、ゲーリー・クーパー主演、1956年)をとりあげます。南北戦争を背景に、北インディアナ州の農園で平和に暮らすクエーカー教徒の日常と、彼らが戦争に巻き込まれてゆく姿を描いた佳品です。
真面目さとユーモア感覚のバランスが見事で、思わず笑ってしまうシーンの続出です。それが作品を豊かなものにしているからでしょう。本作は1957年度カンヌ映画祭のグランプリを受賞しています。
映画の初めのほうに登場する、クエーカー教徒の集会の場面を以下にご紹介します。全編の伏線にもなっている部分です。
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日曜朝の集会(礼拝)。沈黙が支配する場に北軍の大佐(右足負傷)が入ってくる。
・ 大佐:戦争の現状を話しに来ました。
・ 大佐:クエーカーの男性は戦おうとしませんね。
・ 女性牧師:何人かは戦ってます。
・ 大佐:みんなに奨励はしていないでしょう?
・ 女性牧師:ええ。
・ 大佐:戦争はもう2年も続いていて血が流されています。自由のために数千人が命を捧げたんですよ。
・ 女性牧師:奴隷制度には反対です。でも、一人の人間を解放するために別の一人を殺すことは、正しくありません。
・ 大佐:そういった原則の問題を超えて、我々自身の命や家を守る戦いになってきているんです。
・ 大佐:(男性たちのほうを向いて)諸君を守るために仲間が死んでいる。(目の前の若い男Aに)どうして戦おうとしないんだ。
・ 男A:戦う誘惑に駆られますよ。罪深い血が騒ぎますから。だから感情に振り回されないように自分を抑えるようにしています。戦場に出たら、どんなことをしでかすかわからないんです。
・ 大佐:隣の君は?
・ 男B(女性牧師の長男ジョシュ):(しばらく沈黙した後)わからないんです。
・ 大佐:正直な答えだ。みんな戦うのが恐いから教会に身を隠しているのか? 人まかせで身を守ってもらうつもりなのか! 誰か答えてくれないか!
・ 男C:(長老の一人。激しい口調で)わしが言おう! 同胞に銃を向けたくない。わしの家を燃やし家族を襲うがいい。断固として言う。迷えるジョシュよ、よく聞いておけ。誰もわしに暴力を強制できんのだ。
・ 男D(女性牧師の夫):それは、ちょっときつすぎやしないか。襲われたら何をするか誰にも分からんさ。
・ 男C:信念がゆらいでいるようだな。
・ 男D:自分に正直に話しているだけさ。妻や子どもが襲われたり危険にさらされたらどうするか、よく自問するよ。そういう時が来たら、祈って神のおっしゃるように行動するだけだ。
・ 大佐:それが、もう目の前に来てるんだよ!
・ 男D:そうかもしれん。神がお心を示してくださり、我々がそれに従えるように祈るだけだ。
・ 女性牧師:(あきらめたように出ていく大佐を見つめながら)主よ、汝の子らに、あなたの愛を与えてください。悪と暴力に立ち向かうために、剣を鋤に、槍を鎌に変えてください。平和の子らが永遠に戦争を経験することがありませんように。
・ 会衆一同:アーメン。
物語の後半。戦火が激しさを増し、南軍に家を燃やされ家族を襲われた上記の男C(長老の一人)が豹変し、自宅で槇割りをしている男Dに、「行動しなきゃ平和は保てんぞ」と迫るシーンから、言動に責任をもつことの難しさを考えさせられます。
JELA事務局長
森川 博己
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日本福音ルーテル社団(JELA)ウェブサイト
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