2018年6月18日月曜日

【信仰書あれこれ】宗教改革から現在までの興味深い学び

深井智朗著『プロテスタンティズム――宗教改革から現代政治まで』(2017年、中公新書2423)をとりあげます。

本書は最近、読売・吉野作造賞を受賞しました。政治・経済・歴史・文化の各分野における優れた論文および評論を顕彰する賞です。以前に「吉野作造賞」が存在し、政治学者・吉野作造の業績を記念して中央公論社が1966年に創設したのですが、同社が読売新聞社の傘下に入ったため、2000年からは読売論壇賞と統合して「読売・吉野作造賞」に改編されました。

「吉野作造賞」と「読売・吉野作造賞」の過去の受賞作には、永井道雄『大学の可能性』、松山幸雄『日本診断』、西部邁『経済倫理学序説』、山崎正和『柔らかい個人主義の誕生』、青木保『「日本文化論」の変容』、山内昌之『ラディカル・ヒストリー』、野口悠紀雄『バブルの経済学』、遠藤乾『統合の終焉――EUの実像と論理』などがあります。

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深井氏の受賞のことばの一部をご紹介します。(『中央公論』7月号、186~187頁)

  • 制度としての「宗教」はどのような場合でもその時代の社会の影響を受ける。そのため「宗教的コンテクスト」もその時代の「社会的コンテクスト」と切り離して考えることはできない。逆に「宗教的コンテクスト」は特定の時代の「社会的コンテクスト」を形成する大きな要素になっている。だからこそ両者の相関関係を考えることが重要である。
  • 目に見える具体的な現象や既存の社会システムを理解するには、「目に見えない」部分としての宗教の考察、あるいはそれとの相関関係の発見が重要だ。今日再び注目を集めるようになった「地政学」は、そのひとつの試みであろう。
  • プロテスタントと呼ばれるひとつの宗教があるのではなく、その中にまったく性格の異なった集団が混在し、特に国家との関係でまったく異なった考えを持つ二つの流れがあり、それが今日のアメリカやヨーロッパの社会の深層を形成している。この構造を読み解くことが現代社会にとっても重要なことではないかというのが拙著の隠された主張である。


選者7名の選評のいくつか(内容の一部)もご紹介します。(上掲書、189~191頁)

  • ルター以降のプロテスタントの歴史を新書一冊に収めるだけでも大変なのに、そこに明治期日本のプロテスタント受容の意味も扱った技量は並々ではない。……戦後の日本は、政治・経済・文化・学問のどれをとっても、良し悪しは別として米国の大きな影響下におかれてきた。その意味でも、日本理解の一手段としてプロテスタンティズムの歴史を知っておくことは意味深い。その手がかりになる良書といえよう。(山内昌之・東京大学名誉教授)
  • プロテスタンティズムの変遷をたどり、教会と国家、個人の信仰と教会のあり方、救済をめぐる考え方の違いがドイツ、イギリス、アメリカなど国家の間、あるいは宗派間の相克をもたらした事情を解き明かしたのが本書である。ビジネスの成功者こそ「祝福された者」というアメリカ的美談の背景も、ここから読み取れる。トランプ時代のアメリカ社会や、エルサレム問題など混迷を深める国際情勢を考察するうえでも、貴重な知見を与えてくれる。(老川祥一・読売新聞グループ本社取締役最高顧問)
  • わずか200ページ強の新書の中に、500年の長い歴史と、広い世界が詰まっている。といっても、駆け足の年表的叙述や無味乾燥な概論ではない。「アメリカの投票日はなぜ火曜日なのか」「アメリカの企業はなぜアカウンタビリティを重視するのか」といった興味深いエピソードを交え、平易な筆致で楽しく深く解き明かす。プロテスタンティズムの歴史と精神を知っておくことは、世界を読み解き、日本の将来を展望していく上で欠かせない。プロテスタンティズムの理解が進んでいない日本で、第一人者による万人向けの決定版としての本書の意義は大きい。(大橋善光・中央公論新社代表取締役社長)


「信仰書あれこれ」欄で以前に深井智朗氏の本を二冊とりあげました。『伝道』と『信仰のメロディー』です。いずれも読みやすく、中身の濃いものですが、それらはどちらかというとキリスト信徒向けでした。本書は、より広い読者を対象に書かれたものです。

本書に示された「古プロテスタンティズム」と「新プロテスタンティズム」という捉え方、それぞれの特徴などは、信徒も十分に知っておくべきかと思います。本書は知的刺激に満ちており、充実した読書体験を与えてくれる一冊です。

JELA事務局長
森川 博己

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