2018年6月11日月曜日

【信仰書あれこれ】自由意志か奴隷的意志か

マルティン・ルター『奴隷的意志』(中央公論社『世界の名著18 ルター』1969年 、所収。「中公版」として引用)をとりあげます。全訳は『ルター著作集 第一集7』(1966年、聖文舎。「聖文舎版」として引用)で読めます。訳はどちらも山内宣。

ルターは本書について後年、『教理問答書』と並べて自分の正当な書物と言っていることから、ここで展開する神学に並々ならぬ自信を持っていたと推察されます。(聖文舎版8頁)

本書は内容的にかなり難しいものの、ルター神学の深さが感じられる点で貴重な一冊です。以下の引用文を読んで頭の体操をされるのも一興かと思います。本編の数頁毎に登場するルターの毒舌は強烈で、気性の激しさがうかがえます。

◇◆◇

恩恵の助けによる場合にのみ「善」の選択が可能となる
  • エラスムス の言うところでは、自由意志とは「人間の意志の力」であり、この力は、それによって人間が己の能力と理解を超える事柄へと導かれるものである神の言葉とわざとを、自分自身で、欲したり欲しなか
    ったりすることができるものである。(中略)教皇派神学者たちが、あるいは彼らの父であるペトルス・バルドゥスが教えていることのほうが、これよりはるかに我慢のできるものだ。彼らは、自由意志とは識別の能力であり、次に、選択の能力であって、その選択の能力も、もし恩恵が臨在すれば善を選択し、反対に、恩恵を欠けば悪を選択する能力である、と言っており、アウグスチヌスとともに、明らかに、自由意志は、自発的な力では堕落すること以外はなしえず、「罪を犯す以外のことには役立たない」と考えているのである。それゆえに、アウグスチヌスも『ユリアヌスを駁す』第二巻で、「自由というよりは奴隷というべき意志」と言ったのである。(中公版194頁上段~195頁上段)*下線(=森川)が本書の表題の出典。

隠されている神の御旨に対して求められる人間の態度
  • 神は、自らのみ言葉をもって自分自身を規定してはおられずに、むしろ、自由に一切の上に自らを留保しておられる……神は、ご自身のみ言葉をもって私たちに示しておられない多くのことをなしたもうし、また自ら欲していることを、み言葉をもって示しておられない多くのことを、欲せられるのである。……神はみ言葉においては罪人の死を願いたまわない。しかしながら、かの究めがたいご意志においては、罪人の死を欲したもうのである。(中略)ただ神のうちには、究めつくしがたいご意志があるということを知るだけで十分であろう。だが、そのご意志が何を欲し、何ゆえに欲し、いかなる範囲で欲するかというようなことを求めたり、願ったり、気づかったり、あるいはこのことに触れようとしたりすることは、まったく許されていない。逆に、許されているのはそれをただ畏れ、崇めるべきことのみである。(中公版204頁下段~205頁下段)

人間の理性はご都合主義
  • 人間の心の卑劣なことを見るがいい。神が値しない者を功績がなくとも救いたもうとき、いや、多くの失行にも関わらず不敬虔な者たちを義としたもうとき、人間の心はそれを不正として神を弾劾することをせず、これが彼自身の判断によれば、極めて不正なことであるのに、神が何ゆえにこのようなことを欲したもうたかを知ろうと求めないで、このようなことが自分にとって好都合で歓迎すべきことであるので、それが公正で善だと判断する。しかるに、神が(罰に)相当しない者を罰したもうときは、それが自分にとって不都合であるので、これは不正であり、我慢ができないことだとして、理由を求め、不平をつぶやき、涜神を行っているのである。(中公版227頁上・下段)

神は全知全能であり、神においては何事も予め定められている
  • 神の義が人間の頭脳によって義だと判断されるようなものであるなら、そんなものは確かに神の義ではなく、人間の義と何ら異なるものではない……神は真実にして唯一でありたもうがゆえに、そしてまた、神の全体は究めがたく、人間の理性をもっては近づきがたいがゆえに、神の義も究めがたいということは、当然である。否、必然である。(中略)神が一切を予知し、前もってそれを定めていたもうということが真であると私たちが信じるなら、そのとき神は、その予知と予定において、誤ることも妨げられることもできず、かつ、神ご自身の意志によるのでなければ何事も生じないということになる……したがって、同時に理性自身の証言によって、自由意志なるものは、人間のうちにも、天使のうちにも、あるいはいかなる被造物のうちにも、ありえないことになる。(中公版254頁上段~258頁上段)

論争そのものについては、金子晴勇著『宗教改革の精神――ルターとエラスムスとの対決』(1977年、中公新書462 。最近、講談社学術文庫で復刊)という一般向けの本があります。

JELA事務局長
森川 博己

◆◇◆